約 2,283,108 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2458.html
前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 「とりあえず座りなさい。」 部屋に入ってそうそう、ルイズは命令した。 「・・・座るってどこに?」康一は尋ねた。 広い部屋である。うちのリビングくらいの大きさかなぁと康一は思った。 扉から入って正面には大きな窓が開いている。もう暗くて外の様子はわからないが、二階だし景色はよさそうだ。 左手には大きなクローゼットと姿見の鏡が置いてある。そして右手には大きなベッド。ベッドの近くには窓に面するように机と椅子が置かれていて、机のうえにはなにやら分厚い本が開いたままになっていた。 「そうね・・・そこの椅子でいいわ。」マントを入り口近くの帽子掛けにかけながら、ルイズが机の前に置かれている椅子を示した。 康一は言われたとおりに椅子に座り、きょろきょろと辺りを見回した。調度品も一つ一つが飾り気があって、いかにも高そうに感じる。 そうしていると、ルイズがやってくる。腰に手を当てて溜息をついた。 「やっと二人きりになれたわね・・・」 とびっきりの美少女にこんなことを言われてドキドキしない男がいるだろうか!だが、えてしてそういった期待は裏切られるものなのである。ルイズは椅子に座った康一の前に立つと眉を吊り上げた。 「さぁ、白状してもらうわよ。あのゴーレムはなに?」 召還してから今まで、無視されたり教師に割り込まれたりと、質問を邪魔され続けてルイズは我慢の限界にきていたのだ。 やっぱりね・・・。康一は半ば予想はしていたものの、がっくりとうなだれた。 「君にも見えてるんだよねやっぱり・・・ぼくの『スタンド』が。」 「それ!それよ!あんたそいつをどこから出したわけ?」 「どこから・・・といわれてもなぁ・・・」 消えている間、『スタンド』がどこにいるのか、なんてあまり考えたことはなかった。 「まぁ、あえて言うならぼくの体から、かなぁ。」 「嘘!どこかにマジックアイテムを隠してるんでしょ。見せて!」 と手を突き出す。 「そ、そんなのないよ!」 「しらばっくれるんじゃないわよ!あんたみたいな平民がゴーレムを作るなんて、絶対ありえないんだから!」ルイズがつかつかと近づく。 「だから、ゴーレムじゃないったら!それにさっきから平民平民言ってるけど、なんでそんなことがわかるのさ!」 確かに自分は庶民的な家庭の出だが、見ただけでそんなことが分かるのだろうか。 「何言ってるのよ。あんた杖を持ってないし、マントも着てないじゃない。・・・ていうか、あんたって魔法を見たこともないんだったわね。じゃあ貴族にも会ったことがないんだ・・・」 貴族・・・どうやらこの世界では「貴族=魔法を使える人」「平民=魔法を使えない人」ってことらしいぞ?と康一は気づいた。 「まぁそんなことはどうでもいいわ。早く見せなさい!」 ルイズがずいっと近づいてくるので、康一は椅子から立ち上がって後ずさった。 「そんなものはないったら。あれはぼくの『スタンド』だよ。」 「じゃあ、その『スタンド』を私に渡しなさい。」 「だから『スタンド』は渡せるようなものじゃないんだったら!」 ルイズが詰め寄り、康一が下がる。二人はぐるぐると部屋の中を回る。 「ええい、もう!じれったいわね!」 ルイズは痺れを切らして康一を突き飛ばした。康一はちょうど後ろにあったベッドに倒れこんでしまう。 「いいから出しなさい!」 ルイズが康一の上に覆いかぶさり、康一の学生服を脱がそうとする。 「ちょ、ちょっと待って!何をしてるんだぁー!」康一はびっくりして叫んだ。 「うるさいわね!あんたが大人しく出さないのが悪いんでしょ!どこに隠してるの!?」 すごい力である。康一よりも小さいはずの女の子が、抵抗する康一から無理やり服を剥ぎ取っていく。 「だからマジックアイテムなんかないったら!大体もしあったとして、なんで君に見せないといけないのさ!ああっ!ズボンは!ズボンはやめて!」 「やっぱりあるのね!わたしはあんたのご主人様なんだから、使い魔の全てを知る権利があるのよ!!」 「そんな無茶苦茶なぁー!」 その時、バタンという音がして突然扉が開いた。ベッドに入ろうとしたところでのルイズの部屋からの大騒ぎに、文句をつけに来たキュルケである。 「うるさいわよルイズ!こんな遅くに何大騒ぎして・・・」 その後に言葉を続けることはできなかった。 なぜなら。ちょうどその時康一はパンツ以外の全ての衣服を剥ぎ取られたところで、最後の砦であるパンツが引き摺り下ろされるのを阻止すべく、必死の防衛戦を繰り広げており、 ルイズは「ここね!ここに隠してるんでしょ!」といいながら、髪を振り乱し、乱れる服装も意に介さず康一にのしかかろうとしていたのだ。 時が止まった。 固まるキュルケと康一をよそに、ルイズは自分の状態にまだ気づいていないようで、 「なによキュルケ。今忙しいから話なら後にしてくれない?」と息を荒げながらのたまった。 「えーっと・・・」キュルケはぽりぽりと頬を掻いた。 「ルイズったら、思ったよりも情熱的なのね。わたしは襲うより襲われる女になったほうがいいと思うけど、それは個人の自由だものね。」 ルイズはキュルケの言葉をしばらく考え、ようやく今の自分の状態に思い至ったようだ。ぱっとパンツから手を離すとキュルケに詰め寄る。 「ちちちちちちち違うのよキュルケ!これはそんなのじゃなくて・・・!誤解よ!誤解だわ!」 「いいのよヴァリエール。気にしないで。恋愛の形は自由なのだから。ただ男の子に好かれたかったらもう少し慎みを持ったほうがいいとだけ忠告しておくわね。」 といいながら扉へと戻っていく。 「待ってキュルケ!話を聞いて!」 「『ご主人様なんだから使い魔の全てを知る権利があるのよ』ねぇ。あのルイズが言うわねぇ。」 ルイズは耳まで赤くして、それはそういう意味じゃないわよ!と言おうとしたが、キュルケはその間にするりと扉の向こうへ逃げてしまった。 「それじゃ、ごゆっくり~♪」 バタン ・・・・・・・・・・・・・。 ルイズはその場にぺたんと座り込み、頭を抱える。 キュルケは面白おかしくこのことをみんなに話してしまうだろう。そうしたら自分の評判は地に墜ちてしまう・・・! 「嫌がる使い魔を初日で手篭めにした・・・」とか「使い魔に手を出すなんて・・・欲求不満がたまっていたのね。」とか「ミス・使い魔イーター」とか呼ばれてしまう・・・! 「おはよう!ミス・使い魔イーター!」 「あっ!使い魔イーターがこっち見てるぞ!」 「隠せ隠せ!ぼくらの使い魔も美味しくいただかれてしまうぞ!」 「破滅・・・破滅だわ・・・」 康一はルイズが正気にもどったのを見て取ると、剥ぎ取られた服で体を隠しながら、ルイズの肩を叩いた。 「えーっと、落ち着いたんだったら。ぼくのズボンを返して欲しいんだけど・・・」 ルイズは座り込んだままぼんやりとした目で康一を見て、視線をおろした。そしてようやく自分がまだ手に康一の学生ズボンを後生大事に握り締めていることに気がついた。 その瞬間、それまで脱力していたルイズの叩きつけるようなビンタが飛んできた。 「あんたのせいだからねっ!!!」 バッシィィ――z__ン!!!! 威力が強すぎたらしい。康一は吹き飛びながら、ぼくが何をしたっていうんだ・・・と思いつつ気絶した。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1627.html
第二十二章 過去 キュルケ、タバサ、そしてリゾットは馬車に揺られ、魔法学院から延びた街道を南東へ下っていた。馬車はタバサの実家から派遣されてきたもので、タバサのシルフィードはキュルケのフレイムを背に乗せ、馬車の上空を旋回しながら飛んでいる。 「イーヴァルディは竜の洞窟の中に入っていきました。付き従うものはありませんでした。松明の明かりの中に、コケに覆われた洞窟の壁が浮かび上がりました。たくさんのコウモリが、松明の明かりに怯え、逃げ惑いました。 イーヴァルディは……」 「怖くて」 「怖くて泣きそうになりました」 リゾットの絵本を読む声が馬車の中に響く。タイトルは『イーヴァルディの勇者』。ハルケギニアでは一般的な英雄譚を絵本に綴ったものだ。といってもリゾットに絵本を読む趣味があるわけではない。タバサの実家への道中、リゾットがどれだけハルケギニアの言葉を覚えたかを知るために、タバサが渡した教材がこれだったのだ。リゾットはそれを音読し、たまに分からないところがあると、すぐ隣で耳を傾けているタバサに教えてもらっている。 外は晴れ渡り、穏やかな日差しが車内に降り注いでいる。窓からは青い牧草地がのぞき、そんな中で絵本が音読されるのは随分とのどかな光景だった。 向かいに座るキュルケと、その隣に立てかけられたデルフリンガーはそんな光景を面白そうに見ている。二人にしてみればリゾットが絵本を四苦八苦しながら読むというのはなかなか見られない、興味深い光景のようだった。 「あんなダーリンの可愛い姿が見られるなんて、学校に休暇届出してまで来た甲斐があったわね。タバサも楽しそうだし」 「楽しんでるのか? あの娘っ子、表情がかわらねーから分かりづれぇや」 デルフリンガーの言葉に、キュルケはタバサの顔を見て、クスリと笑う。 「とても楽しそうよ。例え一時でも気が紛れてくれるなら、惚れ薬も悪くはないわね」 「そういうもんかねえ。まあ、相棒が字が読めるようになって、あの娘っ子が楽しいなら、こりゃもう俺に言うことはないがね」 確かにタバサの微妙な感情の機微は簡単には読み取れない。だが、キュルケには分かるのだった。タバサが実家に帰ることに対して、不安と哀切と期待とが絡み合った複雑な思いを抱いていることや、今はその気持ちが紛れていることが。 そんなキュルケはもちろん、リゾットも、デルフリンガーも、タバサの実家については何となく察している。タバサの実家というのは決して幸せな環境ではないのだろう。DIOの館でケニー・Gがタバサをおびき寄せるために使った幻影はどこまで真実を映したか、タバサ以外には分からない。だが、「母親らしき人物がタバサらしき少女を庇うように食事に口をつける」という幻影を見た途端、常に冷静なタバサが取り乱した。 光景こそ描写されなかったが、その後、何が起きたのかは想像に難くない。地位が上の人物に命を狙われるような家は大抵、没落せざるを得ない。タバサもそれ相応に過酷な運命を通ってきたはずだ。 「ところで、俺たちはどこに向かってるんだっけ? 随分遠そうだが」 「ガリア王国よ。タバサはそこの留学生らしいの。あたしも初めて知ったわ」 タバサがキュルケとリゾットに、国境を越えるための通行手形の発行をオスマンに頼むように指示したことでそれが判明した。キュルケは『タバサ』という、まるで飼い猫につけるようなふざけた名前が偽名であることをうすうす感づいていたが、今までその理由を尋ねることを控えていた。 キュルケは館での映像を見て以来、タバサを、何かの事情で没落し、世を忍ぶようになったトリステイン名門貴族の出だと当たりをつけていたが……、それは外れていた。トリステイン、ゲルマニアと国境を接する古い王国、ガリア王国の出だったのだ。 ハルケギニアは大洋に突き出たゆるやかな弧を描く半島だ。地球で言う、オランダとベルギーを合わせたぐらいの国土のトリステインを挟むように、キュルケの母国、北東のゲルマニアと、南東のガリアが位置している。二国の国土面積はトリステインの十倍ほどもある。トリステイン人が自嘲気味に『小国』と母国を呼ぶのはそんなわけがある。 さらに南の海に面した小さな半島群には、かつてのゲルマニアのような都市国家がひしめき、覇権を争っている。そのような都市国家の一つに、始祖ブリミルと神に対する信仰の要であるロマリアもある。ちなみに枢機卿のマザリーニはロマリアの出身である。 ハルケギニアを東に進むと、蛮族や魔物が住まうという未開の地があり、さらにその先の砂漠では、砂漠を切り開く能力を持つエルフたちが『聖地』を守っている。さらに東へ向かえば、ロバ・アル・カリイエ……、『東方』とひとくくりにされた地がどこまでも続いている。 大洋とハルケギニアの上を行ったり来たりしている浮遊大陸アルビオンはまた別だ。あれはあくまでアルビオンであって、厳密にはハルケギニアではないのだ。 ガリアは歴史の古い国であり、魔法についても進んだ国である。わざわざトリステインに行かずとも魔法学院はあるのだが、タバサは留学してきている。その理由と今回の帰国の理由について、キュルケは尋ねることを自分に禁じていた。タバサが話したくなれば自分から口を開くだろう。ルイズの同行を退けた時の頑なな雰囲気のわけも、そのときに分かるはずだ。 性格も年齢も違う二人が友達になれたのは、妙にウマが合うからというだけではない。聞かれたくないことを、お互い無理やり聞いたりしないから友達になれたのだ。タバサはそのあまり開かれることのない口によって、キュルケは年長の気配りで。国境を越えてトリステインにやってきたことに関して、二人ともそれなりの理由があるのだった。 そういう意味では異世界からやってきたリゾットも似たところがある。他人の過去について余計な詮索をしないし、自分自身の過去についてもあまり話したがらない。どうやら裏の世界で生きてきたらしいということが分かる程度である。 (あたしの周りは難しい人ばかりね……) そう思いながらそれを楽しんでいる自分に苦笑を浮かべ、キュルケは各国の政情を思い返した。政治に興味がないキュルケでも、昨今のきな臭いハルケギニアに住んでいれば、いやでも耳に入ってくる。 今から向かうガリア王国は、アルビオンのトリステイン侵攻に関して中立と沈黙を保っていた。アルビオンの政変と新政府に脅威は感じているだろうが、なんら声明さえ発していない。トリステインからの同盟参加への申し入れについても、これを拒絶している。自国の国土が侵されぬ限り、中立を保つだろうというのが大方の予想だった。噂によるとガリアは内乱の危機を孕んでいるとのことだった。外憂より、内患で頭が一杯なのだろう。 そんなガリアへの訪問である。最初は観光気分だったが、何だか忙しいことになりそうな予感がした。 しばらくそんなことに思いをはせながら、キュルケは窓の外をぼんやりと眺めていた。 すると、前から馬車に乗った一行が現れた。深くフードを被った十人にも満たない一行であったが、妙にキュルケの注意を引いた。マントの裾から杖が突き出ている。貴族であった。 杖の作りからいって一行は軍人であるようだ。今は戦時であるので珍しくもない。何か密命でも帯びているのだろうか、静々と馬を進めている。馬車の中には何か大きな荷物があった。荷運びの任務だろうか。 先頭を行く貴族の顔が、フードの隙間からちらっと覗いた。涼しげな目元のいい男である。ふぅん、と思わずキュルケは唸った。 「いい男って、いるところにはいるものよね」 腕を組んでうんうんと呟く。 「お前さん、相棒に惚れてるんじゃなかったっけ?」 デルフリンガーが呆れてツッコミを入れると、キュルケはしれっと答えた。 「それとこれとは別よ。いい男はいつみてもいいものよ?」 「その貪欲さにおでれーた」 男でも女でもないデルフリンガーとしてはそういうしかなかった。そんなデルフリンガーをよそに、キュルケは首をかしげた。 「それにしても……どこかでさっきの男、見たことあるのよね……。どこで見たのかしら……。というか、誰だっけ?」 キュルケは熱しやすく、冷めやすい。いい男を見ればその瞬間は魅入ってもすぐ忘れてしまうのである。 「俺に言われてもわからんよ。でも、俺も見たことあるようなないような…」 ちなみにデルフリンガーは自分の所持者、使用者以外の人間は割りとどうでもいいので一度や二度くらいしか会った事のない人間は忘却してしまう。 「……とさ。めでたしめでたし」 そうこう考えているうちに、リゾットが絵本を読み終わった。 「簡単な本なら読めるようになった。貴方は覚えが早い」 今まで聞いていたタバサが呟いた。リゾットもそれは疑問に思っていることだった。彼は語学に特別秀でているわけではない。複数の言語を習得してはいるが、それは単に努力した結果だ。だが、ハルケギニアの言語に関しては一度覚えさえすれば、見た瞬間に意味が浮かんでくるのだ。 「……そうだな。言葉も自動的に翻訳されている……。覚えた文字も自動的に翻訳されているのかもしれない」 「よく分からんが、『サモン・サーヴァント』で呼ばれたときにそういう魔法がかけられたんじゃねーの?」 デルフリンガーが推測を述べた。確かにそれくらいしか考えられない。最もあって困るわけではない。便利なだけだ。 (今度、ルイズに訊いてみるか……) そう思い、リゾットは今まで読んでいた本に目を落とした。内容を強引に要約すると、次のような話になる。 主人公の勇者イーヴァルディが旅の途中、立ち寄った村で村娘にパンをご馳走してもらう。 その村はドラゴンに襲われていて、生贄としてその村娘が選ばれる。それを知ったイーヴァルディは単身、竜の巣に入り、娘を救い出す。 「不思議だ。こういう話は俺の世界にも伝わっている。世界が違っても、人間というのは考えるのは同じなんだろうか?」 「ダーリンの世界にもイーヴァルディの勇者がいるの?」 「主人公は違うが、似たような話はある。聖ジョージ、というが一番有名な主人公だったかな?」 そこでリゾットはタバサが眼鏡の奥の澄んだ青い瞳をじっとこちらを向けていることに気がついた。 「私が……」 「ん?」 聞き返すリゾットに、タバサは首を振った。 「……なんでもない」 呟いて、タバサは目を伏せた。 タバサは本当はこう言いたかったのだ。 『私が囚われた時、貴方は勇者になってくれる?』と……。 だが、リゾットはあくまでルイズの使い魔だ。そのリゾットにこんなことを言っても困らせるだけだろう。それに、今の自分は惚れ薬の飲んでおかしくなっている。だからこんなことを思いつくのだ。そう考え、タバサはその言葉を呑み込み、心の奥深くに沈めた。 国境まで二泊して、ゆるゆると三人は旅を続けた。教師のタバサが優秀なお陰もあり、リゾットはこの三日でかなり文字が読めるようになった。しかし、進むにつれ、タバサはその内心の不安を表すように元々少ない口数をさらに減らしていった。 国境の関所でトリステインの衛士に通行手形を見せ、石の門を潜ると、そこはもうガリアだった。ガリアとトリステインは、言葉も文化も似通っている。『双子の王冠』と並んで称されることも多い。 ガリア側の関所で手形を検査すると、大きな槍を掲げた衛士は言いにくそうに告げた。 「ああ、この先の街道は通れないから、迂回してください」 「どういうこと?」 「ラグドリアン湖から溢れた水で街道が水没しちまったんです」 ラグドリアン湖はガリアとトリステインの国境沿いに広がる、ハルケギニア随一の名勝とその名も高い大きな湖だ。その湖底にはトリステインとの盟約を結ぶ、誓約の精霊とも呼ばれる美しき水の精霊たちが住んでいる。 「……嵐でもあったのか?」 「いえ、そういうわけじゃないんですが……」 衛士の言い方にひっかかりを覚えつつも、街道をしばらく進むと、開けた場所に出た。街道のそばを緩やかに丘が下り、ラグドリアン湖へと続いている。湖の向こう岸はトリステインだ。 確かにラグドリアン湖の水位はあがっているようだ。浜は見えず、湖水は丘の緑を侵し、湖底には花や草が沈んでいた。 「確かに、綺麗な湖だな……」 外へと目をやっていたリゾットの傍らで、タバサもまた外を覗いていた。 「あなたのご実家、この辺なの?」 「もうすぐ」 それだけ答え、後はじっと黙り込む。その片手はぎゅっとリゾットのコートの裾を掴んでいた。 湖を離れ、森の中へと馬車は進む。大きな樫の木陰の空き地で、農民たちが休んでいた。その一人が持っていたリンゴの籠に目をとめたキュルケは、馬車を止めさせ、農民を呼んだ。 「おいしそうなリンゴね。いくつか売ってちょうだい」 農民は籠からリンゴを取り出し、銅貨と引き換えにキュルケに渡した。 「こんなにもらったら、籠一杯分になっちまいます」 「三個でいいわ」 キュルケは一個をかじり、タバサとリゾットに残りを一つずつ渡す。 「おいしいリンゴね。ここはなんていう土地なの?」 「へえ、この辺りはラグドリアンの直轄領でさ」 「え? 直轄領?」 直轄領とは王が直接保有、管理する土地のことである。 「ええ。陛下の所領でさ。わしらも陛下のご家来さまってことでさあ」 農民たちは笑った。確かに土地の手入れがよく行き届いた、風光明媚な場所である。王が欲しがるのも、無理はない。 キュルケは目を丸くして、タバサを見つめた。 「直轄領が実家って……、あなたってもしかして……」 タバサは答えない。それを見ながら、リゾットはリンゴをかじった。甘い味が口中に広がった。 それから十分ほどして、タバサの実家の屋敷が見えてきた。古く、立派な作りもさることながら、キュルケは門に刻まれた紋章を見て息を呑んだ。交差した二本の杖と、"さらに先へ"と書かれた銘は間違いなくガリア王家の紋章だ。 だが、その紋章には十字に傷がつけられていた。不名誉印である。この家の王族の権利は剥奪されているのだ。 玄関前の馬周りにつくと、一人の老僕が近づいてきて馬車の扉を開けた。恭しくタバサに頭を下げる。 「お嬢様、お帰りなさいませ」 他に出迎えのものはいない。それどころか、屋敷からはほとんど人の気配がしなかった。まるで死人の家のようだと感じながら、リゾットはタバサに続いて馬車を降りる。タバサが老僕に小瓶を渡すのが見えた。あの秘薬屋で手に入れた薬だった。 老僕が先にたち、三人は手入れが行き届いた庭を歩いていく。だが、タバサの足取りは重かった。その表情から、リゾットはタバサの不安を僅かに読み取った。 キュルケもそれを感じたのか、後ろから優しくタバサの肩を抱いて、いつもの楽天的な声で言った。 「大丈夫よ。何があっても、あたしたちがついてるわ」 タバサは頷いたが、まだ表情は硬かった。 「…………」 見かねたリゾットが手を差し出す。タバサは一瞬、驚いたような顔でリゾットを見たあと、頬を染めてその手を取る。そのまま三人は屋敷へと向かった。 客間に通され、ソファに座ったキュルケは、タバサに言った。 「まずはお家の方にご挨拶したいわ」 しかしタバサは首を振る。 「ここで待ってて」 「……大丈夫か?」 リゾットが尋ねると、僅かに嬉しそうに頷き、客間から出て行った。残されたキュルケとリゾットは視線を交わし、頷きあう。 「やっぱり色々複雑そうね、タバサの家は……」 「あの紋章……、直轄領にあるということはガリア王家のものか?」 「ええ……。しかも、不名誉印……王族の権利を剥奪されていたわ」 キュルケが眉根を寄せた。デルフリンガーも刀身をカタカタと揺らす。 「おでれーたな。只者じゃないとは思ってたが、まさか王族関係とはね」 やがて、先ほどの老僕が入ってきてテーブルに各人の前にワインとお菓子を置いた。 それには手をつけずに、キュルケは老僕に尋ねる。まずは外堀からだ。 「このお屋敷、随分と由緒正しいみたいだけど。なんだかあなた以外、人がいないみたいね」 老僕は恭しく礼をした。 「このオレルアン家の執事を務めておりまするペルスランでございます。おそれながら、シャルロットお嬢様のお友達でございますか?」 キュルケは即座に、リゾットはしばらく考えてから、頷いた。オレルアン家という家名に、キュルケは心当たりがあった。ガリア王の弟、王弟家がその家名を使っている。 「どうして王弟家の紋章を掲げずに、不名誉印なんか門に飾っておくのかしら」 「お見受けした所、外国のお方と存じますが……。お許しがいただければ、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」 「リゾット・ネエロ。東方から来た。タバサにはいつも世話になってる」 「ゲルマニアのフォン・ツェルプストー。ところで一体、この家はどんな家なの? タバサはなぜ偽名を使って留学してきたの? あの子、何も話してくれないのよ」 キュルケがそう言うと、老僕は切なげにため息を漏らした。 「お嬢様は『タバサ』と名乗ってらっしゃるのですか……。わかりました。お嬢様が、お友達をこの屋敷に連れてくるなど、絶えてないこと。お嬢様が心許す方々なら、かまいますまい。お話いたしましょう」 それからペルスランは、深く一礼すると語りだした。 「この屋敷は牢獄なのです」 タバサは屋敷の一番奥の部屋の扉をノックした。返事はない。いつものことだが、タバサは失望を感じた。この部屋の主がノックに対する返事を行わなくなってから、五年が経っている。その時、タバサはまだ十歳だった。 タバサは扉を開けた。大きく、殺風景な部屋だった。ベッドと椅子とテーブル以外、他には何もない。開け放した窓からは爽やかな風が吹いてカーテンをそよがせている。 この何もない部屋の主は自分の世界への闖入者に気付いた。乳飲み子のように抱えた人形をぎゅっと抱きしめる。 それは痩身の女性だった。もとは美しかった顔が病のため、見る影もなくやつれている。彼女はまだ三十代後半だったが、二十も老けて見えた。伸ばし放題の髪から覗く目が、まるで子供のように怯えている。 その前のテーブルのグラスが空になっているのを見て、タバサは絶望に近いような落胆を感じた。ペルスランに渡して飲み物に入れてもらった薬は、効を為さなかったのだ。スクウェアクラスが秘術を尽くして作った薬が効かないということは、叔父が盛った薬は先住魔法絡みなのだろう。そして先住魔法に対抗する方法をタバサは知らない。 「誰?」 わななく声で、女性は尋ねた。タバサはその女性に近づくと、深々と頭を下げる。 「ただいま帰りました。母様」 しかし、その人物はタバサの言葉に反応すら見せない。耳が遠いわけではない。心が遠いのだ。目を爛々と光らせて冷たく言い放つ。 「下がりなさい無礼者。王家の回し者ね? 私から、シャルロットを奪おうと いうのね? 誰が貴方たちに、可愛いシャルロットを渡すものですか」 タバサは身じろぎもしないで、母の前で頭を垂れ続けた。 「おそろしや……。この子がいずれ王位を狙うなどと……、誰が申したのでありましょうか。薄汚い宮廷のすずめたちにはもううんざり! わたしたちは静かに暮らしたいだけなのに……、下がりなさい! 下がれ!」 母はタバサに、テーブルの上のグラスを投げつけた。タバサはそれを避けなかった。頭に当たり、床に転がる。母は抱きしめた人形に頬擦りした。何度も何度もそのように頬をすりつけられたせいか、人形の顔はすり切れてはみ出ている。 タバサは悲しい笑みを浮かべた。それは母の前でのみ見せる、たった一つの表情だった。 「貴方の夫を殺し、貴方をこのようにした者どもの首を、いずれここに並べに戻って参ります。その日まで、貴方が娘に与えた人形が仇どもを欺けるようお祈りください」 開けた窓から風が吹き込んでカーテンを揺らす。初夏だというのに、湖から吹いてくる風は肌寒かった。 ペルスランが語ったのは、どこの王家の歴史にもありそうな、しかしどこで聞いても気持ちが暗くなるような話だった。 先王が崩御した際、無能と称される現王ジョゼフよりも遥かに人望と才能に溢れた、弟のオレルアン公を王座へつけようという動きが持ち上がった。王宮は二つに分かれ、最後は弟が狩猟会で毒矢に射られるという形で決着がついた。権力争いの勝者が最初にすることはまずその残党を刈り取ることである。オレルアン公の娘であるタバサはその最たる者として、母親ともども宮廷に呼ばれ、その食事に精神を狂わす魔法の毒を盛られた。だが、それを事前に悟ったタバサの母親はタバサに代わってその食事を口にしたのだという。 「以来、奥様は心を病まれたままでございます」 キュルケは想像を超えた経緯に言葉を失い、呆然と老僕の告白に耳を傾けていた。 「先の薬は母親のためのものか?」 「はい。お嬢様は奥様の心を治すための手段を、ずっと探しております」 目の前で母親の心を壊されたタバサは、それまでの快活で明るかった性格が一変し、それ以来、言葉と表情をほとんど表さなくなった。 そして自分の身を守るため、王家の下す生還不能と思われるような困難な任務に志願し、それを果たすことで王家への忠誠を証明しているのだ。 だが、王家はその働きに報いることなく、タバサにシュバリエの称号だけを与え、トリステインへと留学させる一方、母親をこの屋敷に幽閉した。 「そして! 未だに宮廷で解決困難な汚れ仕事がもちあがると、今日のようにほいほい呼びつける! 父を殺され、母を狂わされた娘が、自分の仇にまるで 牛馬のようにこき使われる! 私はこれほどの悲劇を知りませぬ。どこまで人は人に残酷になれるのでありましょうか」 キュルケはタバサが口を開かず、シュバリエの地位にありながらその証拠をマントに縫い付けぬ理由を知った。 雪風……、彼女の二つ名だ。彼女は冷たい雪風に身も心も浸し、たった一人で生きてきたのだ。その冷たさ、孤独さはキュルケには想像できなかった。 その時、音を立てて暖炉の上に飾られていた調度品が落ちた。 「……すまない」 リゾットは謝ると、席を立って調度品を拾い上げ、元に戻す。 「?」 ペルスランは不審そうな顔をした。リゾットとその調度品の間にはかなりの距離があり、手を伸ばしたとしても届くはずがない。キュルケは恐らくリゾットがスタンドで落としたのだとは予測できたが、何故そんなことをしたのかは分からなかった。 まさか、能面のような無表情を保つリゾットが、怒りの余りスタンドの制御を誤ったなどということは、外からは分かるはずがない。 「続けてくれ……」 呟くように言って、リゾットはまたソファに腰を下ろす。 「はい。お嬢様は、タバサと名乗っておられる。そうおっしゃいましたね?」 「ええ」 「奥様は、お忙しい方でありました。幼い頃、お嬢様はそれでも明るさを失いませんでしたが……、随分と寂しい思いをされたことでありましょう。そこで奥様は忙しさの合間を縫ってご自分で街へ向かい、手ずからお選びになった人形をお嬢様にプレゼントなさったのです。そのときのお嬢様の喜びようといったら! その人形に名前をつけて、妹のように可愛がっておられました。今、その人形は奥様の腕の中でございます。心を病まれた奥様は、その人形をシャルロットお嬢様と思い込んでおられます」 キュルケははっとした。 「『タバサ』。それはお嬢様が、その人形におつけになった名前でございます」 「………」 キュルケもリゾットも言うべき言葉が見つからないように黙り込んだ。ペルスランは二人に頭を下げた。 「先ほどから拝見しておりましたが、お嬢様はお二人に随分、心を許しておられる様子。どうか、シャルロットお嬢様をよろしくお願いします」 「ええ……、わかったわ」 「出来る限りのことはする」 その時、扉が開いてタバサがあらわれた。 ペルスランは一礼すると、苦しそうな表情を浮かべ、懐から一通の手紙を取りだした。 「いつごろ取りかかられますか?」 まるで散歩の予定を答えるように、タバサは言った。 「明日」 「かしこまりました。そのように使者に取り次ぎます。ご武運を」 そういい残すと、ペルスランは厳かに一礼して退室した。 タバサはリゾットたちの方を向いた。 「ここで待ってて」 これ以上はついてくるな、と言いたいのだろう。タバサの実力を持ってしても命がけになるということから、その危険さは容易に知れる。だが、キュルケは首を横に振った。 「ごめんね。さっきの人に全部聞いちゃったの。だからあたしもついていくわ」 「俺は元々お前の任務のためについてきた。だからついていく」 リゾットはこともなげに答え、キュルケに同意した。 「……危険」 「気にするな。チームが危険を分かち合うのは当然だ」 「そうよ。危険ならなおさら貴方を一人で行かせるわけにはいかないわ」 タバサは答えない。ただ、軽く下を向いた。 その夜、リゾットはタバサをベッドに運び、寝かせてやった。タバサはずっと不安そうにリゾットに抱きついていたのだが、気が張り詰めていたせいもあり、そのまま眠ってしまったのだ。その手の中にはリゾットの頭巾がある。 眼鏡を外した寝顔をみる限りでは、復讐を胸に秘め、数々の困難な任務に挑んできた戦士には見えない。どこにでもいる、あどけない少女のようだった。 リゾットが立ち上がると、タバサが寝言を呟いた。 「母様……、母様、それを食べちゃだめ、母様」 苦しそうに、悲しそうに何度も母親を呼ぶ。額にはじっとりと汗が浮かんでいた。 汗をぬぐってやると、うっすらとタバサは眼を開ける。起きたかと思ったが、リゾットの姿を確認すると、安心したように、また目蓋を閉じた。 タバサの眼差しを受けてリゾットの胸中に僅かに痛みのようなものが走る。タバサの父親は暗殺されたという。母親も毒を盛られて心を壊された。手段としては暗殺のようなものだ。 リゾットは暗殺者として、組織の命令で数多くの人間を血に沈めてきた。命の奪い合い、または怨恨の結果として相手を死に至らしめたというならともかく、戦意や殺意のない者の命をも一方的に奪ってきた。当然、殺した人間に家族や友人がいることも認識していたし、彼らから復讐される覚悟も、地獄に堕ちる覚悟もしていた。自分を拾ってくれた組織のためならそれで構わない、と思っていた。 これからも必要があればリゾットは人を殺すだろう。だが、組織からを抜けた今、タバサのように理不尽に両親を奪われた者を見ると、眠らせた罪悪感のような感情が疼くのだった。 反逆に失敗したリゾットは、世界に死を撒き散らすだけで、何も為しえなかったも同然だ。その事実が罪悪感を促進する。 (俺たちのしてきたことは無意味だったのか?) そんならしくもない疑問が頭を掠める。 「……タバサは、寝た?」 キュルケは眠れないらしく、ソファに片肘を突いて物憂げにワインの杯を傾けている。 「ああ……」 リゾットもソファに座り、自分の杯にワインを注ぐ。任務が待ってはいるが、酔いたい気分だった。 「安請け合いしちゃったけど……、こりゃおおごとね」 「……そうだな」 二人は先ほどタバサから聞いた任務のことを話した。どう考えても命がけの任務である。一つの失敗で命を落とすかもしれない。おまけにタバサは惚れ薬のせいで本調子とはいえない。 だが、二人とも任務から降りるつもりは毛ほどもなかった。暗殺者のリゾットは言うに及ばず、ゲルマニア貴族のキュルケにとっても、死はそれほど遠い世界ではない。そんなありふれたものよりも、今はタバサが心配だった。 「でも、あたしはそんなに心配してないわ。タバサもダーリンもいるもの。友人と愛する人が一緒なら、どんな任務もなんてことはないわ」 いつものように楽天的にキュルケが言う。 「……愛する人、ね……」 リゾットの暗い呟きを聞いて、キュルケは拗ねたような顔をした。キュルケがこんな顔を他人に見せるのは珍しい。 「何よ。ダーリンったら、あたしの愛を疑うの?」 「そういうわけじゃないが……、お前がどこまで本気か、俺には分からない」 「本気よ、全部」 それからちょっとおどけた感じで付け加える。 「そうね。でもタバサにならダーリンを譲ってもいいわ。ダーリンのことを愛してるのと同じくらい、タバサのことも大切に思ってるもの」 そこまで言うと、キュルケは照れ笑いを浮かべ、髪をかきあげた。 「ベッドの上ではタバサに負けない自信があるしね」 リゾットはその冗談に取り合わなかったが、キュルケがタバサのことを本当に想っていること、そしてリゾットの沈んだ雰囲気を感じ取って気を使っているらしいことは感じ取った。 「……タバサが大切なんだな」 「ええ、タバサもダーリンも、あたしにとってかけがえのない人よ。だから、明日からの任務も皆で終わらせましょう」 「……そうだな。さっき作った装備もある。勝算は十分だ」 リゾットはキュルケの気遣いに感謝する意味で笑みを返そうと思ったが、上手く笑えなかった。 「……気を使わせて、すまない。いや……ありがとう、というべきか」 「どういたしまして」 明るく笑うキュルケに吊られ、リゾットも僅かに笑った。ほんの僅かだが、今度は笑えた。 杯を飲み干し、立ち上がる。 「明日から任務だ。そろそろ寝ろ。俺も自分の部屋に戻る」 「あら、一緒に寝ないの? あたしもタバサも構わないけど……」 からかうように笑みを浮かべるキュルケに、リゾットは首を横に振る。 「そう? 遠慮しなくてもいいのに」 「そういう問題ではないだろう」 不意にキュルケが笑みを消し、真顔になった。 「貴方は強い人だけど、強いばかりだとはあたしは思わないわ。無理はしないでね、ダーリン」 キュルケがそれを心から言っていることが表情から読み取れたため、リゾットも頷いた。 習慣的にリゾットは弱みを他人に見せない。つけこまれるということもあるが、リーダーという立場から、仲間を動揺させないために常に動じない態度を見せるよう、心がけていたからだ。キュルケは自由奔放で大雑把に見えるが、繊細さを持ち合わせている。リゾットの習慣に気付いたのだろう。 「覚えておこう……」 呟いて、リゾットは部屋を出た。キュルケに励まされた自分に苦笑する。 「……俺も焼きが回ったか。プロシュートが今の俺を見たら即説教だな」 窓から見える二つの月を見上げ、元の世界の仲間たちに誓う。 (見ていろ。俺たちのしたことは、俺たちが生きてきたことは無意味ではない……。それを俺が必ず証明してみせる……) 答えはない。だが、リゾットには答えなど必要なかった。水の精霊に誓うまでもなく、心に誓ったことは自分だけが知っていれば十分だ。 ラグドリアン湖からの風がリゾットのコートの裾を僅かに揺らした。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2463.html
前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 魔法学院の教室は、以前大学見学のときにみた講義室のようだった。 ただ、全体が石造りだし、天井の明かりは蛍光灯ではなく、何か白熱電球のような光がふわふわと浮いていたりするのだった。 「(うーん、魔法だ・・・)」 康一は改めて、ここが魔法の世界だということを確認した。 ルイズと康一が入ると、教室のあちこちからクスクスという笑い声がする。 ルイズはそれが聞えないふりをしていたが、康一からはルイズの耳が赤くなっているのがわかった。 教室を見回すと、様々な動物がいる。というか見たこともないような生き物があちらこちらでうようよしている。 でっかい目玉おばけがふよふよと浮いていたり、下半身が蛸の女性が大きなあくびをしていたりするのが見える。 康一は目を擦ってみたがやはり見間違いや幻覚ではないようだ。 誰も騒ぎにしないところを見ると使い魔というやつなのだろう。 その中に朝出会った赤くて大きなトカゲをみつけた。 案の定、その近くの席にキュルケが座っていた。周りを男達に囲まれているのを見て「やっぱり男のほうが放っておかないよなぁー」と思う。 向こうもこちらに気づいて、康一にひらひらと手を振ってきた。 こちらも手を振り返したら、ルイズに後頭部を叩かれた。 ルイズが席の一つに座ったので、康一も隣に座った。 ルイズが変な顔をした。 「あんた、なにやってんの?」 「なにって・・・」 「そこはメイジの席よ。使い魔は座っちゃダメ」 「じゃあ、どこに座ればいいのさ!」 どこを見渡しても『使い魔用の席』なんてものは見当たらない。 「床に座ればいいじゃない。」 ルイズはさも当然そうにいった。 康一はまた出て行きたくなったが、ぐっとこらえてルイズの近くの段差に座り込んだ。 石畳に座るとおしりがつめたい・・・。康一は黙って立ち上がると、教室のうしろに立っていることにした。 ルイズはその様子を見ていたが、何も言わなかった。 そうしていると、扉が開いて中年の女の人が入ってきた。 紫色のローブに身を包み、帽子を被っている、ややふくよかで優しそうな人である。 彼女は教壇に立ち、教室を見回すと、満足そうに微笑んでいった。 「皆さん。春の使い魔召還は、大成功のようですわね。『メイジを知るには使い魔を見よ』といいます。このシュヴルーズ、みなさんが立派に使い魔を召還できたことを誇りに思いますよ。」 クスクスという笑い声が教室のあちこちから聞える。 シュヴルーズは教室の後に立っている康一を見つけると、誰だろうかとしばらく考えていたが、思い至ったらしい。 「ああ、そこの平民の男の子は、ミス・ヴァリエールの使い魔ですね?なかなか個性的というかなんというか・・・」 と先生が呆れたようにいうと、教室がどっと笑いに包まれた。 ルイズは顔を真っ赤にして身を縮めている。 シュヴルーズはさっと手を振り、教室の笑いを沈めると、教師の顔に戻って言った。 「それでは授業を始めます。私の二つ名は『赤土』。『赤土』のシュヴルーズです。二つ名の通り、『土属性』のメイジです。では、まずはおさらいから。魔法の四大系統はご存知ですね?」 教室を見回す。 「ミスタ・マリコルヌ?」 名前を呼ばれた太っちょな生徒が立ち上がった。 「は、はい。ミセス・シュヴルーズ。「火」「水」「風」「土」の四つです!」 シュヴルーズは頷いた。 「よくできました。ミスタ・マリコルヌ。これに今は失われた『虚無』の系統を加えて、全部で五つの系統があります。我々メイジは、今までこの始祖より与えられた『系統魔法』を使い、人々の暮らしを豊かにしてきました。」 シュヴルーズは講義する。魔物から土地を解放し、開拓し、建物を立て、暮らしに必要なものを作る。病気を癒し、天候を読み、人々を守る。魔法の恩恵があるからこそ今の世の中があるのだと。 康一はうーん、と腕組みをした。なるほど、メイジが威張るのにも理由があるんだなぁ~。 シュヴルーズは教卓を右に左にと歩きながら続けた。 「そうした系統魔法の中で、『土』は一際生活に密着した属性であると言えるでしょう。そこで、まずは皆さんに『土』系統の基礎である、『錬金』のおさらいをしてもらいます。」 そういうと杖を振った。 教卓の上に数個の石ころが並べられる。そのうちの一つに杖を当てた。 シュヴルーズが短いルーンを唱えると、そのただの石ころが一瞬眩しく光り、黄金色の金属に変わっていた。 「う、うわぁー!ただの石っころが黄金になったぁー!!」 康一は思わず声をあげた。 教室中からまた小さな笑い声がする。 ルイズは康一をキッと睨み、ぱくぱくと口だけで「あんたは黙ってなさい!」と言った。 シュヴルーズは康一のことを少し見た。 「・・・いいえ、これは黄金ではなく真鍮です。私はただの『トライアングル』ですから・・・。黄金練成は『スクウェア』クラスでないと不可能です。」 教室を見回す。 「みなさんのほとんどは『ドット』か『ライン』ですが、真鍮への練成は『ドット』クラスでも可能です。」 「せんせー!『ゼロ』クラスでも可能でしょうかー!」 金髪の少年が手を上げて言うと、教室がどっと笑いに包まれた。 ルイズがその場でがたっと立ち上がった。 「ギーシュ!あんたは黙ってなさいよ!」 「別に、ぼくはただ授業における健全な質問をしただけだよ。無駄口は慎みたまえ『ゼロ』のルイズ。」 金髪の少年は手に持った薔薇で口元を隠し、にやりと笑った。 なんとなく康一はむっとした。 「はい、そこまでです。静かにしなさい。」 シュヴルーズが手を叩くと、再び教室が静かになる。 「ミスタ・グラモン。お友達を挑発するものではありません。」 シュヴルーズが注意すると、ギーシュは「かしこまりました、ミセス。」と大仰に一礼をした。 「では、ミス・ヴァリエール。あなたに、この真鍮への錬金をやってもらいましょうか。」 教室がどよめいた。 「え、わたしですか?」 ルイズは自分を指差した。 「そうです。さぁ、教卓の前に出てきなさい。」 と机の上の小石を杖で示した。 ルイズはなぜか立ち上がらない。どうしようかと迷っているようだ。 発表するのが恥ずかしいのかな?だとしたら意外な一面だ。と康一は思った。 「さぁ、恥ずかしがらずに!私はあなたが非常に勤勉な生徒であると聞いてますよ?落ち着いてやれば大丈夫です。さぁ、失敗を恐れずに!」 シュヴルーズは促した。 ルイズはそれでも迷っていたようだが、やがて決心したように立ち上がった。 教室から悲鳴が上がった。 「ルイズ、やめて。」 キュルケがおびえたように言う。 「うわぁー、ゼロが魔法を使うぞぉー!」 「みんなかくれろぉー!!」 それらの声を意に介することもなく、ルイズは緊張した面持ちで教室を降りていく。 ルイズがシュヴルーズ先生の前に立ったころには、教室内の生徒は皆机の下に隠れていた。 シュヴルーズはそんな生徒達を不思議に思ったが、とりあえずルイズに試させることにした。 「さぁ、ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を思い浮かべるのです。この場合は真鍮ですね。」 ルイズはその言葉にこくりと頷くと、一度大きく息をして手にもった杖を振り上げた。 思い切ったように、目を瞑り、杖を振り下ろす。 その瞬間。石ころが机ごと爆発した。 爆炎と机の破片が飛び散る。生徒達は机の下に隠れて無事だったが、シュヴルーズは至近距離で爆発を喰らい、吹き飛んだ。 教室の後方にも爆風が及んだ。 「ACT3!」 康一はとっさにスタンドで身を守った。 だが、隠れ切れなかったほかの使い魔は爆風と爆音でパニック状態になる。 火トカゲは火を吹き、バジリスクはカラスを石にした。目玉オバケの触手に絡み取られたマリコルヌの股間に大蛇が噛み付いた。 「うぎゃぁーー!!!」 教室は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。 一方この惨状を巻き起こした張本人といえば、最も近くで爆発を受けたはずなのに、吹き飛ばされもしないで立っていた。 ただ、全身煤と埃まみれで、服はぼろぼろ。スカートが破れて、少しパンティが見えていた。 こほっ、とルイズは煤で真っ黒な咳をした。 「ちょっと失敗したみたいね。」 教室中から怒号が飛んだ。 「どこがちょっとなんだよ!この魔法成功確率『ゼロ』のルイズがぁーーー!」 「だからやめてっていったじゃない!」 「メディック!メディーーック!」 「もう、ヴァリエールは退学にしてくれよ!!」 康一は、ようやく『ゼロ』の意味を理解した。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/372.html
ギーシュは目の前に立つ男に恐怖していた。 (この男は平民だ。それどころか杖を持っていない。 魔法を使えるはずがないッ! しかし、こいつは身を隠したと思うと左腕だけが亀から出てきて攻撃した。 何をやったのかサッパリ分からない! しかも「全力で来い」だって!? こいつは僕を、いやメイジそのものを全く恐れていない! いや、そうじゃない。こいつは『戦って死ぬ事』自体を恐れていない! 何故だ!?何故平民がそんな風に考えれるんだ!?) 「君は…一体何者なんだい…?」 ギーシュは右腕の痛みを堪えつつ尋ねた。 「俺はそこのルイズとか言う小娘の使い魔とやらだが?」 「そうじゃない。君は使い魔である以前に、何者なんだと聞いたんだ。」 「…良い眼になったな。 よし、いいだろう。教えてやる。俺は平民で…」 ポルナレフはエジプトで死んだ親友達を思い出しつつ静かに言った。 「…悲しい友情運を持つ男だ…」 ギーシュに向けた眼に先程の怒りは無かった。 あったのは貴族の屋敷で暮らして来たギーシュやギャラリーのほとんどにとって、見たことが無いほど悲しい光だった。 「…悲しい…友情運?」 「そうだ…」 辺りに何か辛い空気が流れた。 誰もポルナレフの過去に何があったのか知らなかったが、悲しみだけは伝わって来たのだ。 「…さて、小僧。いい加減決闘の続き、と行こうか。」 ポルナレフはナイフを逆手に構えた。 「ああ、いいだろう。」 ギーシュが薔薇を振ると新たに六体のワルキューレが現れ、計七体となった。 「それが貴様の限界か?」 「ああ、僕のワルキューレは同時に七体までだ。」 この時、ギーシュは男に勝つには複数でやるしかない、と考えた。 (それに全力で行かないと後が怖かった) 「行け!ワルキューレッ!!」 号令と共に一体を残し六体のワルキューレが突進をしだした! 一方のポルナレフにはナイフ一本しかない。 亀のトリックはもう使えないことは明白である。 ポルナレフはナイフをより強く握りしめた。 「来い…!」 その時、左手のルーンが輝き出した。 ポルナレフは体が軽くなった気がした。 まるで、チャリオッツの装甲を外した時の様だった。 これならイケるかもしれない。思わずそう思ってしまった …が当然ナイフだけでは多勢に無勢だった。 現実は非情である。 ポルナレフは二体の肘から先を切り落としたが、 あっという間に囲まれると、殴られては蹴られ、蹴られては殴られた。 「所詮カッコつけてもやっぱり平民は平民か。」 「メイジには勝ち目ないよな、そりゃ。」 周りから失望に似た声がし始めた。 「オラァッ!」 ギーシュの掛け声と共にポルナレフはワルキューレの渾身のストレートを腹にモロにくらい、吹っ飛んだ。 ゴシャァァアァァッ! ポルナレフは地面にたたき付けられた。 誰もがやれやれ、やっと終わった、と思った。 その中でルイズは自分の使い魔が一方的にやられる姿を我慢できなかった。 闘いを止めようと急いで間に入ろうとしたが、 「ミス・ヴァリエール。決闘の邪魔をしないでくれたまえ。」 ギーシュが杖を向けた。 「どう見たってもうあんたの勝ちじゃないッ!大体平民がメイジに…」 ギーシュはやれやれと呟いた。 「君は自分の使い魔の台詞を聞かなかったのかい?これは決闘だ。 侮辱なんてあってはならないんだよ。」 でも…とルイズが言ったその時だった。 「小僧の言う通りだ、小娘。手を引け。まだ決着はついてはいない…」 土煙の中からポルナレフの声がした。 しかし、同時にゴフッ!と血を吐いた音がした。 「あんた…何で…?何の為に闘うの?勝ち目なんて無いのに…」 ルイズはその音を聞き、涙を流しそうになりながら呟いた。 またゴフッ!と血を吐いた後、ポルナレフは誰に対してでもなく、独り言のように語り出した。 「俺はまだ、死んではいない。死んではいけない。そして死ぬことは出来ない…。それだけの理由がある…」 「?」 「俺は…死んだ。『二度』…な。そしてここに来て『一度』蘇った…。」 「何を言っているんだ!?」 ギーシュはポルナレフの言葉の意味が全く分からなかった。 「しかしもう『一度』蘇ることは出来なかった。何故か?『運命』がそれを望んだからだ。我々は『運命の奴隷』だからな…運命には従わざるをえない…」 土煙の中からポルナレフが出てきた。 その眼はしっかりとギーシュを見ている。 左手には先程のナイフが、右手には… 「だが、君のお陰で私は『運命』に選ばれる事が出来た。」 ボロボロの石の鏃ような物がその掌を貫いていた。 そして背後には、誰にも見えない、『白銀の戦車』の名を持つ『騎士』がポルナレフを護るように立っていた。 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/bizarre/pages/41.html
「う……ここは……」 重傷のリゾットが目を覚ましたのは花京院との戦いに敗れ、花京院が港を去ってから2時間も後の事だった。 次第に空が白んで行く中リゾットは激しい憎悪に駆られていた。 (あのガキィィィッ!こんな目に合わせやがって……次に会う事があったらこのオレの痛み以上の苦しみを与えて殺……) 『リーダー、オレたちチームは、そこら辺のナンパ・ストリートや仲良しクラブで“ブッ殺す”“ブッ殺す”って大口叩いて仲間と心を慰めあってる様な負け犬どもとは訳が違うよな。 “ブッ殺す”と心の中で思ったならッ!その時既に行動は終わっているんだぜッ!』 憎悪に駆られそうになったリゾットの脳裏に部下の一人であるプロシュートの言葉が過ぎる。 (すまねぇプロシュート。いくらやられたからって軽々しく殺すなんて言うもんじゃあねぇ。 そして生きてるからにはたとえこの身が朽ちようと、身が朽ちるその最後の最後まで食らいついてやって……そして勝利をもぎ取る。 オレはまた戦うぞ……) とりあえず殺人ゲームに再び参戦する事を決めたリゾットはまず両手の拘束を解く事にした。 『メタリカッ!』 リゾットがスタンドを発動するとリゾットを縛っている服に向かって鉄柱からメスが数本飛んでくる。 メスはリゾットを縛る服に刺さり、切り裂くと地面に落ちた。 精度が良い訳ではないので多少手をかするもその前のダメージに比べたら実に些細なものである。 これでリゾットは自由になった。 (まずは……そうだな。この身を癒さなくてはな……戦うのはその後で良い) リゾットはケガでふらつきながらも歩き出す。 (こんな事になるとは……あの荒木という奴も倒してやる……名簿を見たところプロシュートとギアッチョの奴がいるみたいだ。合流すれ…… いや、待て……アイツらはブチャラティ達と戦って死んだはずッ!何故生きている?) リゾットは想像もしていなかった展開に驚く。 (バカな!死んだ者を甦らす等不可能なはずだッ!ましてやそれを一ヵ所に集めるなんて時空や空間を超えるなどしなければ……『時空や空間を超える』? まさかッ?!) リゾットはある仮説に達した。 (時空や空間を超える!それがあの荒木とかいう奴の能力か!) リゾットは自らの仮説に背筋が凍った。 (時空などを超える能力……それならプロシュート達が甦っているのも納得だ! しかしそれはこういう事でもある。 この街に恐竜などを連れて来る事も可能だ…そんなの相手に勝てるのか?) リゾットは思った。 (何にしろ今は仲間が欲しい。プロシュート達を探すんだ。もしかしたらこのゲームにボスも参加してる可能性もある。 あのガキにもリベンジがいるだろう……が、今はそんな事はどうでもいい。せめてアイツらに奴の能力だけでも伝えなくては……) そう考えたリゾットはプロシュート達を探し求めて朝靄の中に消えていった…… 【港(I-9)/一日目/早朝】 【リゾット・ネエロ】 [スタンド] 『メタリカ』 [状態] 重傷 [装備] なし(ハリセンは捨てました) [道具] 食料類が無い支給品 [思考・状況] 1)傷を少しでも癒さなくては…… 2)あのガキ殺s(リーダー、殺すと心の中で思った時には既に行動は終わってるんだぜ) 3)荒木の能力……何て恐ろしいんだ!あのガキや組織のボスなんて今はどうでも良い!早くプロシュート達に知らせてやらなくては! 4)プロシュートが死んでる事は知らない リゾットが荒木の能力の一部に気付きました。 投下順で読む 前へ 戻る 次へ 時系列順で読む 前へ 戻る 次へ キャラを追って読む 21 開戦 リゾット・ネエロ 56 『真っ直ぐに』
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/650.html
ここらでポルナレフの一日を簡単に語ろう。 朝起床したらバケツに水を汲んできて、それからルイズを起こして洗顔させる。その後着替えさせ、一緒に食堂に行く。その時こっそりと厨房に回り食事を頂く。 授業にはついていかず、午前中に掃除と洗濯を済ませる。亀の中に洗濯機があるのだが、亀も鍵もルイズが所持しているので使えない。 昼食をまた厨房でもらった後、食後の運動として決闘の真似事に付き合う。機嫌がいい日は杖を折るだけ、悪い日は良くて切り傷、悪くて針串刺しの刑ですませる。 夕方になればまた厨房に行き食事をもらう。 その後ルイズや亀と部屋に戻り、またルイズの身の世話をしたあと、藁の中で寝るのだ。 なお、今後の事も考え、開いた時間を使って、ハルケギニアの文字や地理等の常識的知識を勉強している。 シエスタやマルトー達が暇な時は彼等に教えてもらい、そうでない時は図書館に行き適当な本と自分の知識を照らし合わせたり、知り合いがいたらそいつに教えてもらったりするのだ。(主に決闘相手) 特にハルケギニアの言語はラテン語系のそれとは似て非なる物だったが、一週間足らずで簡単な文なら読み書き出来るようになった。 そして今日も決闘が終わったその足で図書館に来ていた。 「学校の図書館で勉強か…何だか学生に戻ったような気分だな。」 ポルナレフは本から顔を上げ呟いた。 彼は既に三十を過ぎている。学歴も高校までしか無かったので、それだけ学校が懐かしく思えたのだ。もっとも体育会系の彼は図書館で勉強なんてあまりしたことが無かったのだが…。 そう物思いに耽っていると、廊下でドタドタ走る音がし、誰かがドアを破壊するかのような勢いで開けて入ってきた。 ポルナレフが迷惑そうにドアの方を向くと、それはルイズだった。 「ハァ…!ようやく…ハァ…見つけ…た…!」 息を切らしつつ、ルイズはポルナレフを睨み付けた。 「図書館では静かにな。あと廊下は走るな。」 ポルナレフは明らかに場違いな指摘をあえてしてみた。 「黙りなさい!誰のせいだと思ってんの!」 当然ルイズはキレた。そのツッコミにポルナレフは10点中3点と心の中で酷評を下した。 「ひょっとして俺か?」 「あんたよ!何でかは知らないけどミスタ・コルベールからあんたを学院長室に連れてこい、て言われたの!」 「学院長室に?」 ポルナレフは驚いた。何故自分が呼ばれねばならない? 自分は一生徒の使い魔であれ、一応ここの生徒では無い。決闘なんて一方的に相手がやってくる物で自分に非は無いはずだ。あ、でもマリコルヌだけはやりすぎだったか。 とはいえ、学院長がお呼びなのだ。行かねばなるまい。 面倒臭そうに立ち上がるとそのまま図書館から出て、ルイズの後について行った。 学院長室に向かう途中、ふとポルナレフは気付いた。 「お前…亀はどうした?確か今朝授業に連れていったよな?」 「え…あ…そ、その」 「まさか爆発の餌食に……」 「まさかそんな訳ないでしょ!ただいつの間にかいなくなってただけよ!」 ルイズは顔を真っ赤にして言った。 「主人なら自分の使い魔(自分含む)ぐらいちゃんと管理しろ。」 「うるさい!」 そんなやり取りを交わしつつポルナレフは南西の方角に亀の気配を感じた。 ポルナレフはチャリオッツが戻ってきて以来、何故か亀の位置がだいたい分かるようになったのである。 おそらく亀も同じくポルナレフの位置が分かっているのだろう。 だからといって何のメリットもないのだが、ポルナレフはこの現象に関してジョースターやディアボロの血統を思い出した。 彼等は血の繋がり故か互いの位置が分かる。 かといって彼等みたいに亀と自分に同じ血が流れているとは思えなかったが、一つだけ思い当たる節があった。 それはトリッシュに化けたディアボロのもう一つの顔、ドッピオである。 あの時、既に視覚を失い、魂の形を見ていたブチャラティの目をディアボロはどうにかしてごまかした。 ブチャラティはあの時確かにトリッシュだと言った。 ポルナレフはディアボロがドッピオに自分とトリッシュの魂が似通う部分のみを渡したのではないだろうかと推測していた。(事実そうなのだが) それならトリッシュがドッピオなのにディアボロの存在を感じたのも納得がいく。 つまり、互いの位置が分かるのは血統云々というより、魂が繋がっている、あるいは共鳴を起こしているのではないか。 それも自らの魂を具現化出来るスタンド使いだからこそ、出来るのではないだろうか。 それならレクイエムの時には魂が入れ代わり、それ以後亀の中で幽霊として過ごしていた自分と亀の魂が繋がっているということがありうるかもしれない。 だから亀だけでなく自分にも使い魔のルーンが刻まれたのか? ポルナレフがそんな事を考えているうちに、ルイズが亀を見つけた。 「ようやく見つけたわ。ほら、こっちに来なさい!」 ルイズは逃げようとした亀を捕まえた。 それを見て、亀の位置なんて分かったところでしょうがない、現に自分よりルイズが先に見つけたではないか、とポルナレフは思った。 「君がミス・ヴァリエールの使い魔君とやらかね。ご存知だとは思うが、わしはトリステイン魔法学院学院長オスマンじゃ。 こちらは秘書のミス・ロングビル。」 「始めまして」 ロングビルはペコリとお辞儀した。 「J・P・ポルナレフだ。」 ポルナレフもお辞儀した。 「さて、ポルナレフ君。君を呼び出したのは君に聞きたいことがあるからじゃ。なに、そんなに固くなることはない。 別に校則違反の決闘を責めてるんじゃないから。」 ポルナレフはホッとする反面、決闘のことを責めるので無ければ一体なんの用事だろうと疑問に思った。 「君に聞きたいのは…あのゴーレムのことじゃ」 「『ゴーレム』?ギーシュのワルキューレのことか?」 「違う違う、あんな物じゃ無い。わしが言っておるのは決闘の度に君の側にいる『見えない』ゴーレムじゃ。」 オスマンは『見えない』殊更強調して言った。ポルナレフは一瞬ドキリとしたが、冷静を装い、 「私の側に立つ見えないゴーレム?何のことだ?」 と返答しつつ、チャリオッツを呼び出し、オスマンにその剣先を向けた。 いざとなったらオスマンの喉をかっ切る覚悟である。 「隠しても無駄じゃよ。のぉ?ロングビル。」 「ええ。大人しく認めた方がいいですよ。」 ガサガサと後ろで物音がした。 「何故なら貴方は既に死地にいるのですから。」 ポルナレフが後ろを振り向くと、そこにいたのは杖を構えたコルベールだった。前をみるとこれまたいつの間にか杖を構えたオスマンとロングビルがいた。 まさに前門の虎後門の狼、絶体絶命である。 「成る程…それほどこいつを危険視するか。」 ポルナレフはそう呟くと、静かに両手を上げ降参の意志を示した。その様子に三人ともホッとして杖を下ろした。 「それじゃあ、教えてくれるのかね?」 「仕方あるまい。貴様らの望む通り教えてやろう…だがその前に聞きたいのだが、何故あれを知っている?見えないはずだが…?」 「そこの遠見の鏡に映っておった。そのままでは見えん事は使い魔を使って確認した。」 「さてはあの白鼠か…あと、ミス・ロングビル。」 「何ですか?」 ポルナレフはつかつかとドアの方に歩いていくと思いっきりドアを開けた。 「キャッ!」 少女の悲鳴らしき声がした。 その声にオスマン達がドアの向こうを見るといきなり開いたドアに鼻柱をぶつけ、床に後頭部を打ち付け昏倒したルイズの姿があった。 鼻血がヤバイ位出ていて、せっかくの美少女がもはや間抜け面である。 「盗み聞きしている輩を何処か遠くへ連れていってくれ。」 「何故私が…」 「すまんがロングビル、彼女を医務室に。」 「…分かりました。」 ロングビルは私だけ話を聞かせないつもりか畜生、と心の中でプッツンしながらルイズにレビテーションをかけ、医務室へ運んでいった。 「さて、それじゃあ何から話せばいいんだ?ロングビルが帰って来るまでに終わらせたい。」 「何故じゃ?彼女にも話を聞く権利は…」 「ロングビルが帰って来たら、その頃にはルイズも帰ってくるからだ。」 ポルナレフは一週間、ルイズを観察した上で、運んだ人が医務室から戻ってくるより先にここに来れると判断した。(あくまで予測である) だから、一番重要でなく、かつ片道の時間が長くなりそうなロングビルを指名したのだ。 オスマンは、よっぽど嫌いなんだな、と同情しつつポルナレフに全てを話すように言った。 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2467.html
前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 小さな少年である。 女の子ですら、大体が見下ろす形になる。 男と比べると、頭一つ分以上は低い。 メイジでもない。強そうにも見えない。 しかし、その目を見た群衆は、なぜか自分から道を開けた。 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド 康一は、驚くルイズの肩に手を置いた。 その手からは「もう大丈夫だから。」という覚悟が伝わってくる。 康一はルイズの前に進み出た。 ギーシュは、突然しゃしゃり出てきたチビの平民を見下ろした。 「なんだって?よく・・・聞えなかったんだが。もう一度言ってくれるかな、平民。」 「ぼくがお前に決闘を申し込む。そういったんだ。」 ギーシュはようやく、目の前にいるのがルイズの使い魔だということを思い出した。 「ああ、君はルイズが捕まえてきた平民だったか。どうせ使い魔召還が出来ないからといって、その辺の子どもをさらって来たんだろう。平民の出る幕じゃない。どきたまえ。」 「嫌だね。」 康一はギーシュを指差した。 「おまえはルイズの『誇り』を不当に侮辱したッ!その償いをしてもらう!」 「ふん、ばかばかしい。君になにができるというんだね。」 「お前をじゃがいもだって目を背けるようなぼごぼごの顔面にしてから、ルイズに言った言葉を取り消させるッ!」 ギーシュは目を細めた。 「平民の癖に口だけは達者だな。その勇気に免じて見逃してやろう。さっさと『ゼロ』を連れて逃げ帰るがいい。」 「逃がしてください。の間違いじゃないのか?」 「・・・なんだと?」 ギーシュは聞き返した。 「『僕は女の子に振られて恥をかいたので、ルイズにやつあたりをしました。この上平民にぼこぼこにされるのは嫌なので、見逃してください。』お前はそういうべきじゃないのか?」 ギーシュは覚悟を決めた。ここまで侮辱されて放っておいたら、貴族としての沽券に関わる。 「いいだろう。そこまで死にたいのなら相手をしてやる!ヴェストリの広場まで来い!」 ギーシュはマントを翻し、食堂を出て行った。 「ギーシュとルイズの使い魔の決闘だァー!」 ギーシュの友人達がわくわくした様子でそれについて行った。 周りに集まった人垣も、この面白そうなイベントに興味津々だ。 既にヴェストリの広場への移動を始めている。 自分もそれについていこうとした康一をルイズがしがみつくようにして引き止めた。 「あ、あんた。何言ったか分かってるの?死ぬわよ!?」 ルイズはさっきまで自分が追い詰められていたのをすっかり忘れてしまったのかのようだ。 「あのくそったれな貴族をぶっ飛ばして、君に謝らせる!」 「無理よ!」 ルイズは悲鳴をあげた。 「ギーシュはあれで強いのよ?『ドット』メイジだけど、一度にたくさんのゴーレムを操れるの!同じ学年で、あいつより強い奴なんて数えるほどしかいないわ!」 康一は袖をつかむルイズの手を押さえた。 「ぼくはこの世界のメイジについてあまり知らない。ひょっとしたらぼくなんて相手にならないほど強いのかも・・・。でも、あれはぼくが今戦わなくちゃいけない敵なんだ!」 「だから、君はぼくを信じてほしい。大丈夫!ぼくは負けるつもりなんてこれっぽっちもないからね!」 康一はルイズの手を離させると、ヴェストリの広場に向かって歩き出した。 「ちょ、ちょっと待ちなさい!」 ルイズは康一の目に、思いがけず強いものを感じて、うろたえながらも彼を追いかけた。 ヴェストリの広場は、『風』と『火』の塔の間にある普段人気のない中庭である。 群集について行った康一は大きな人垣があるのを見つけて、そこに分け入った。 人垣を抜けると、すでにギーシュは薔薇の造花を手に待ち構えていた。 「とりあえず、逃げずに来たことはほめてやろう。」 「這い蹲るのはお前のほうだ!逃げる必要なんかこれっぽっちもないねッ!」 そのとき、康一はギーシュの奥の人垣の中に、知っている人を見つけた。 「(シエスタだ!)」 きっと騒ぎを聞きつけて駆けつけたのだろう。 シエスタは野次を飛ばす観衆の中で、懸命に「コーイチさん!逃げてください!」と叫んでいる。 「そっか・・・」 康一は気づいた。自分がこれから『スタンド』を使えば、普通の平民でないことがばれてしまう。 「(ごめんね、シエスタ。騙すつもりはなかったんだ。君によくしてもらってすごくうれしかった。)」 シエスタは裏切られたように感じるだろうか。康一は心を痛めた。 そのとき、康一の体に光る粉のようなものが振りかけられた。 「なにっ!?」 「ギーシュ!大丈夫だ!この平民、『マジックアイテム』はもってないぜ!」 声がしたほうを振り向いた。さっきギーシュと一緒にいた仲間の一人だ。 「お前ぼくに何をしたッ!!」 「何って、『ディテクト・マジック』さ・・・」 かわりにギーシュが答えた。口元に笑みを浮かべている。 「君が魔力を持った品を持っているかどうか調べた。当然だろう?これは僕と君との一対一の決闘だ。他人の魔法に介入されるのは不愉快だからね。まぁ、持っていないようで少し感心したよ。」 ギーシュは薔薇の造花を振った。 一枚の花びらが地面に舞ったかと思うと、甲冑を着た女戦士のような人形が現れた。 「僕の名はギーシュ・ド・グラモン!『青銅』のギーシュだ。当然自分の魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?」 これが『ゴーレム』・・・!人間程度の大きさだが、全身が金属でいかにも堅そうだ。 それに自分に比べるとずいぶんと大きい。体重が違いすぎる。まともに殴りあえるわけがない。 「いくぞ!!叩きのめせ!ワルキューレ!」 ギーシュが命令すると、ゴーレムがドン!と土煙をあげて突進してきた。 康一は身構えた。 「(でも、君は勘違いをしている。ぼくの『エコーズ』は『マジックアイテム』なんかじゃない。ぼく自身の能力!)」 「そのワルキューレが、ACT3の重さに耐えられるか試してやるッ!」 康一は声高にACT3を呼 『異端者は通常火刑に処せられるわ。』 「はっ!?」 康一は、突然ルイズが言っていたことを思い出した。 そうだ・・・『エコーズ』が『マジックアイテム』じゃないことがばれてはいけないのだ。 つまり、今ここで『スタンド』を使うわけにはいかない!? 康一が気づいたときには、ワルキューレが目と鼻の先まで接近していた。 「しまった!!」 避ける間もなく、ワルキューレの青銅製の右拳が顔面を捉え、康一は吹き飛んだ。 ギーシュは地面に這いつくばった康一を見下ろし、大きく手を広げた。 「さぁ。哀れな平民に貴族との『絶対的な差』というものを教育してあげよう。」 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2486.html
前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 ゼロのルイズの使い魔。広瀬康一のハルケギニアでの一日は、桶に水を汲んでくることから始まる。 水場で自分の顔を洗い、水を汲む。この水でルイズに顔を洗わせる。 次はルイズを制服に着替えさせるわけだが、最近ルイズは康一に手伝うように要求してこなくなった。 相変わらず背を向けて待つ康一から隠れるように、もぞもぞと着替える。何かの拍子に目が合うと、顔を赤くして怒る。 以前は裸になっても恥ずかしがらなかったのに、謎である。 朝食の頃合になると、康一はルイズからバスケットを受け取って外に出る。 最近は内容がかなり豪勢になっている気がする。 というか、ハルケギニアの朝食は総じて重いことが多いうえに、厨房のマルトー親父が「たくさん食べて大きくなれよ!」との愛をこめて、どんどん料理を豪勢にし、さらに肉をてんこ盛りにするので、康一はちょっとげんなりしてしまう。 質素でもいい、母さんが作ってくれた味噌汁が恋しい。 だから、食べきれない分は、最近仲良くなった他の使い魔たちに分けてあげることにしている。 先日タバサやキュルケを乗せていた青い竜(風竜というらしい)と偶然会った際に食べきれない肉をあげたら、他の使い魔たちもわらわらと寄ってくるようになったのだ。 最近の食事は、厨房の裏手にある使い魔たちのたまり場でとることも多い。 授業の時間は、康一もルイズに付き添って出席することにしている。 使い魔である康一は本来出てもしょうがないのだが、何気なく聞いているうちに面白くなってきたのだ。 本来は勉強が好きではなかったのだが、こちらの世界のことを少しでも知りたいという『必要性』が康一の意欲を支えていた。 「もう床はいいから、椅子に座りなさいよ!」 とルイズが言うので隣に座らせて貰っているが、他の生徒たちも何も言わない。 ただ、キュルケがタバサを連れてやってきて、康一をルイズと挟む形で座ってしまうので、キュルケに恋する男たちの視線が背中に突き刺さるのが最近の悩みの種である。 どうしても納まりきらない男が、康一に嫌味を言ってきたり、もっと直接的に侮辱してきたりすることもある。そういうときは、だいたいキュルケの合図で、フレイムがこんがりと焼いてくれる。 ただ、キュルケが居ないときに、一度数人の貴族に囲まれたことがあった。 「平民の癖に・・・」「ゼロの使い魔の分際で・・・」と詰る男たちの前に、かわりに立ちはだかってくれるものがいた。 あの決闘で因縁のあったギーシュである。 ギーシュは言った。 「ミスタ・コーイチは僕を相手に、立派に自らの実力を証明してみせた。その彼を平民と侮るなら、それは僕への侮辱と見なす!」 文句があるなら「青銅」のギーシュが相手になるぞ!そういってギーシュが見栄を切ると、男たちは鼻白んで退散していった。 所詮貴族相手に本気で対立するほどの覚悟はないのである。 康一が礼を言うと、ギーシュは照れくさそうに鼻を掻いた。 「君はこの『青銅』のギーシュに打ち勝った男だからね。その君が馬鹿にされるのが我慢できないだけさ。」 そして改めて、ルイズを皆の前で侮辱したことに謝罪した。 潔い謝りっぷりに「なんだ。以外といいやつじゃあないか。」とその謝罪を受け入れた康一は、ギーシュとそれから機会のあるごとに話す仲になった。 実は、あの鼻っ柱をへし折られた決闘の後、一気にカリスマ性を失ったギーシュを哀れに思ったモンモランシーが戻ってきてくれ、よりを戻したらしい。得なやつである。 そんな風にしてギーシュといろんな話をしていると、ギーシュの友人達とも自然と仲良くなっていった。 こうして、召喚されてから二週間もすると、康一の周りには常に人が集まるようになっていった。そして、康一の隣にはいつもルイズがいた。 それまでいつも一人だったルイズである。急にクラスメイトたちで賑やかになった学校生活に、最初ルイズは戸惑い気味だった。 しかし、みんなから好かれる康一と一緒にいると、わだかまりのあったクラスメイトたちとも自然と打ち解けることができた。 こうして一日を終え、二人揃ってルイズの部屋で寝る前には、ベッドのうえでいろいろな話をするようになった。 ルイズはハルケギニアのことを康一に教え、康一は杜王町のことをルイズに話した。 話が由花子さんの段になると、ルイズはしかめ面をして、疑わしそうな目で見た。 「あんた、前から時々恋人がいる、恋人がいるって言ってたけど、まさか本当なわけ?」 見栄張ってるんじゃないでしょうねー、と言わんばかりである。 「まさかって、まだぼくがうそついてるとか思ってたの~!?」 大仰に目をひん剥いてみせると、ルイズはなぜか目をそらした。 「・・・あんたの恋人ってどんな人?」 康一は目を閉じて、由花子さんの顔を脳裏に描いた。 すらっとした体型。整った鼻筋。きめの細かい肌。長く艶やかで、きらきらと光を放つ黒髪。そしてなによりも、あの強くまっすぐな瞳。 由花子の容姿を話して聞かせると、ルイズはどんどん不機嫌になっていった。 「男より頭ひとつ分大きい彼女なんて、似合わないわ。」 ルイズはそっぽを向いたまま、ネグリジェの裾をぎゅっと握り締めた。 「それをいうと、ぼくと付き合ってくれる女の人なんてほとんどいなくなっちゃうなぁ~。」 康一が笑うと、ルイズは口を尖らせた。 「別に・・・あんたより小さい女の子なんてそこら中にいるわよ。」 それだけ言って毛布に包まった。 「そうかなぁ~。」 康一は知り合いの女性たちの身長を思い出してみたが、自分より低い人は思いつかなかった。 こっちではタバサが自分より低いだろうが、あれは明らかに子どもだからノーカウントである。 でもルイズがこうやって毛布を被るのは、これで話を打ち切りにするという合図だと分かってきた康一も、そろそろ寝ることにした。 部屋の明かりを消す。 明日あたりオールド・オスマンに会いに行ってみようかな。 杜王町に帰る方法をそろそろ本格的に探してみよう。 そう心に決めて、目を閉じる。 静かになった部屋で、毛布から頭だけ出したルイズが、何か言いたげに見つめているような、そんな夢を見た。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2472.html
前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 康一は、学院長室を退室すると、とりあえずルイズの部屋に行ってみることにした。 ひょっとしたらそろそろ起きてるころかもしれないし。 ガチャリと扉をあける。 ルイズはあどけない寝顔を晒して、すぅすぅと寝息を立てていた。 まぁ、三日間も寝ずにぼくの看病をしてくれてたんだもんなぁ。 もう少し寝かせておいてあげようかな。 康一はルイズを起こさないようにして部屋を出た。 そのへんをぶらぶらしてこよう。 お昼もかなり過ぎた頃にルイズは目を覚ました。 もぞもぞと起きあがり、きょろきょろと周りを見回す。 「コーイチ・・・?」 あいつどこいっちゃったのかしら。 ご主人様が寝てるってのに出かけてるなんて、いけない使い魔だわ・・・ ふと気づいた。 「あいつ・・・今日からどこで寝させればいいのかしら。」 当初は当然のように床に寝させる予定だった。 でもなぜか、今はそれが悪いことのように感じるのだ。 なぜかしら? 守ってもらったから? 嫌われたくないから? 「そ、そんなことないわ!あいつはただの使い魔だもの!」 じゃあ、この硬くて冷たい床に寝させる? 「・・・それはちょっと・・・」 ルイズは、んー、と唸った。 「そ、そうね。私は優しいご主人様だから、床は勘弁してあげるわ。床は!」 じゃあどこに寝させようか・・・ 自分の座っているベッドを見る。 大きなベッドである。 わたしもコーイチも小さいし、十分一緒に寝れる広さはあるわね。 「だ、ダメよ!ダメダメ!いけないわルイズ!結婚の約束もしてない男と一緒のベッドで寝たりなんかしたらお母様に叱られちゃう!」 だいたいあいつは犬っころだ!キュルケに誘惑されてだらしなく鼻を伸ばしていた。 一緒のベッドに寝たりなんか襲われ・・・ ルイズは康一の間の抜けた顔を思い出した。 「・・・襲われないわね。多分。」 大丈夫。子犬を抱いて寝るようなものだ。い、いや抱かないけど! ルイズは誰にでもなく言い訳した。 「まぁ・・・ちょっとしたごほうびってやつよね!変な気起こしたらひっぱたいてやるんだから!」 なんだかルイズはわくわくしてきた。 一緒のベッドで寝ていいわよ、って言ったらあいつどんな顔するだろう! ルイズはベッドを飛び出して、午後の授業に出ることにした。 次にルイズと康一が顔を合わせたのは夕食時のアルヴィーズの食堂である。 ひょっとしたら・・・と顔を覗かせると、ルイズはちょうど席についたところらしかった。 なぜか上機嫌なルイズに自分の夕食を渡された康一は、さて・・・と考えた。 「どこで食べようかな・・・。」 もう暗くなってきたし、外では食べたくない。 厨房に行こうか・・・でも、今はきっと忙しい時間帯だろうし、康一に構っている暇はないだろう。 そうしていると、暗闇の向こうから火の玉のようなものがふわりふわりと揺れているのが見えた。 「ま、まさか!あれ・・・・・・ひょっとして人魂ってやつですかぁー!?」 しかもその火の玉はこちらに近づいてくるように見える。 「ま、まさかこの世界にも幽霊がいるのかぁー!!」 杜王町の鈴美さんを思い出す。 しかし、その人魂が近づいてくるにつれ、人魂の下に大きなトカゲが浮かび上がってくる。 「ふ、フレイム?」 あれは確か、キュルケさんの使い魔、フレイムだ。 「なーんだ。びっくりした。お前だったのかぁ。」 康一はほっとした。そういえば、フレイムの尻尾は常に火が揺らめいている。なぜ、その辺に燃え移らないのかよく分からないが、そういうものなんだろう。 フレイムは康一の足元に来ると、きゅるきゅると人懐こい声をあげて康一を見上げた。 「な、なんだ?ご主人様とはぐれちゃったの?」 康一は恐る恐るフレイムを撫でてみた。 あたたかい・・・。滑らかな鱗は確かに爬虫類なのだが、まるでサウナの壁を触ったときのような熱さがある。 やっぱこの世界の生き物って面白いよなぁ。でも、なんか可愛いな。でかいけど。 康一がその肌触りを楽しんでいると、フレイムがもぞもぞと近づいてきて、康一の夕飯が入ったバスケットをぱくりと加えた。 「アッ!こら!食べちゃだめだってば!それはぼくのごはんだって!」 しかしフレイムは康一の抗議に耳を貸すこともなく、背中を向ける。しばらく歩いてからこちらに振り向く。 「・・・ひょっとして、ついてこいって言ってるの?」 きゅるきゅる。フレイムはバスケットを咥えたままで答えた。 しょうがないので、康一はフレイムについていくことにした。 フレイムを追ってしばらく歩くと、建物の中に入る。階段をのぼり、ルイズの部屋を通り過ぎ、ある扉の前で止まった。 「ここって、確かキュルケさんの部屋・・・だよね?」 フレイムが康一を見上げる。きゅるきゅる。 「入れっていうのか?でも、勝手に入っていいのかなぁ・・・」 康一は躊躇ったが、それでもフレイムがじっと康一を見つめてくるので、ドアノブに手を伸ばした。 「失礼しまーす。」 恐る恐る扉をあけて、顔を覗かせる。 部屋は真っ暗だ。しかし、カーテンからわずかに入ってくる月の光が、ぼんやりと椅子に座った女性のシルエットを浮かび上がらせる。 「いらっしゃいコーイチ。扉をしめてくださる?」 キュルケの声がしたので言うとおりにする。 「あのー、キュルケさん?暗くてよく見えないんですけど・・・」 康一がそういうと、キュルケが指を弾いた。 すると、康一の左右にある蝋燭に火が灯された。 奥に向かって順番に蝋燭の火が灯っていき、最後にテーブルの上にある燭台に火がついて、部屋の中をぼんやりと浮かび上がらせる。 テーブルには白いテーブルクロスをかけられ、アルヴィーズの食堂の料理が霞むようなご馳走が並べられている。 その向こうに、キュルケが座っている。いつもの大きく胸の開いた制服だが、マントは外している。 「待っていたわコーイチ。よろしければ、あたしと夕食をご一緒していただけないかしら。」 揺らめく蝋燭の光に照らされたキュルケは、あっけにとられる康一を見て妖しく微笑んだ。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2460.html
前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔 康一が部屋に戻ると、まだご主人様(仮)は毛布を頭から被って丸まっていた。 何時に起こせ、とも言われていないのだが(というより時間が分からないが)、康一はとりあえずルイズを起こすことにした。 「ねぇ、君。起きなよ。」 毛布を揺さぶる。 だが、ルイズは「違うもん・・・食べないもん・・・使い魔食べないもん・・・」だのと寝言をつぶやきながら起きようとはしない。 「もう、しょうがないなぁ。ほら、いい天気だし、起きろってば!」 康一は無理矢理、がばっと毛布を剥ぎ取った。 息を呑んだ。 長い桃色の髪の毛が、ゆるやかなウェーブを描いてシーツに広がり、太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。 その中で胎児のような格好で眠る少女は、急に毛布が奪われたせいだろう。雪のように白くて細い手足を更に縮こめて眉根を寄せた。 康一は何か見てはいけないものを見てしまった気がしてあわてて視線を逸らした。 「あ、朝だよ!起きなくていいの?」 康一が明後日を向いたまま声をかけると、それまで丸まっていた少女が、シーツの上でゆっくり伸びをして、起き上がった。 まだ寝ぼけたようにぼんやりとした表情で、あんた誰?と聞いた。 康一は呆れた。 「昨日君に無理矢理召還された広瀬康一だよ。もう忘れたの?」 ルイズはあー、そういえばそうだったわねー。とつぶやいて。それからようやく昨日の夜のことに思い至ったのだろう。 「あ、あのねー。昨日のことは・・・」 「分かってるって。でも、ぼくが何も持ってないことはわかっただろ?」 ルイズはまだ言い足りないようだったが、まぁいいわと自分を納得させたようだった。 そして自分の格好に気づく。 「わたし、あのまま寝ちゃったんだわ・・・」 ルイズは康一が気絶した後、どうしようどうしようと一通りおろおろしたあと、もうどうにでもなれ!とそのままベッドに飛び込んだのだった。 康一に毛布をかけることにまで気が回ったのはまさしく奇跡といえる。 ルイズはもう一度大きく伸びをして、それからブラウスのボタンに手をかけた。 ボタンをはずしていくほど、その奥の下着が垣間見えて行き、康一は悲鳴をあげた。 「ちょ、ちょっと!何でいきなり脱ぐんだよ!」 ルイズは、はぁ?と怪訝そうに言った。 「だって、昨日着たものをそのまま着てたら気持ち悪いじゃない。」 「ちがうよ!ぼくが見てないところで着替えてくれって言ってるんだ!」 「なんで?」 「なんで?って・・・乙女の恥じらい・・・とか。」 康一はぼそぼそとつぶやいた。 「あのねー。もう一回断っておくけど、あんたはわたしの使い魔なのよ?使い魔に見られたくらいでいちいち恥ずかしがってられると思ってんの?」 ルイズはブラウスを脱ぎ捨てたところで腰に手を当てた。 本当に恥ずかしくないらしい。 昨日あれだけあわてたのも、単に体面の問題だったようだ。 もう本当に男として見られてないというか、犬猫の扱いなのね・・・。 康一は改めてがっくりときた。 ルイズは肩を落とした康一をしばらく見ていたが、気にすることなく今度はスカートを脱ぎ始めた。 康一はあわてて背中を向けた。 そこにルイズから声がかかる。 「下着。」 「は?」 「気が利かないわねー。取ってっていってるの。」 「し、下着くらい自分で取ってくれッ!」 「あんた使い魔なんでしょー。それくらいやるのは当然じゃない。」 うぐっ!康一はさらに言い返そうとして言葉を飲み込んだ。 康一はこの世界の『使い魔』について何も知らない。 確かに自分は使い魔になることを承諾した。しかしまさかこんなことまでさせられるとは! 「(お姉ちゃんの下着だと思おう。お姉ちゃんの・・・)」 康一はいろいろと後悔したが、とりあえず言うとおりにすることにした。 背を向けた後ろで、するすると下着を外す音がする。 そりゃー、そうだ。新しい下着を着るには古い下着を脱がなくちゃいけないですよねー! 「(お姉ちゃんが着替えてるだけだ。お姉ちゃんが着替えてるだけ・・・)」 康一は心の中で繰り返して乗り切った。 「ブラウスとスカート。」 もう言い返す気力もない。同じくクローゼットをあさり、下着姿のルイズを見ないようにして手渡した。 「なにしてんの。あんたが着せるのよ。」 「な、なんだってー!?」 いい加減に我慢の限界だ! そりゃあ女の子の着替えに立ち会えてちょっと嬉しいのはあるが、この扱いはあんまりだ! 康一はルイズが下着姿なのにも構わず向き直った。 「平民の召使いがいるときは、貴族は自分で服なんて着ないの。知らないの?」 「ふざけるなっ!それくらい自分でやってくれ!ぼくをなんだと思ってるんだ!」 「使い魔でしょ?衣食住を世話するかわりに使い魔をやるんだったわよねー?」 ルイズは椅子に腰掛け、ふふん♪と足を組んだ。 「そ、それは・・・でもいくらなんでも・・・!」 「あんたを誰が養うと思ってんの?さぁ、早くしなさいってば。」 もうぐうの音もでない。 とほほ、な康一は出来るだけルイズのほうを見ないようにしてプリーツスカートを手に取った。 「さて・・・と。」 すっかり着替え終わったルイズは姿見で身だしなみを整えている。 一方の康一はすっかり尊厳を踏みにじられてげっそりとしていた。 「使い魔がこんな大変なものだなんて思わなかったよ・・・」 「何言ってるの。まだ、なーんにもしてないじゃない!」 ルイズは腰に手を当てた。 康一は今のうちに使い魔は何をすればいいのかを聞いておくことにした。 「他にぼくは何をすればいいわけ?」 着替えを手伝ったり雑用をしたりするだけなら、それはただの召使いな気がする。 「そうねぇ・・・」 ルイズはアゴに人差し指をあてて首をかしげた。 「まず、使い魔は主人の目となり、耳となる能力を与えられるわ。」 「はぁ」 スタンドとスタンド使いのようなものだろうか。 康一もACT1の視界を借りることで、半径50m程度の偵察を行ったりすることがある。 「でも、無理ね。わたしあんたの見てるものとか聞いてるものがわかんないもん!」 それは正直助かるなぁ。と康一はほっとした。 そんなことになったらプライバシーもなにもあったもんじゃない。 「それから、使い魔は主人の望むものを見つけてくるのよ。例えば、秘薬とか薬草とか、鉱石とかね。」 でも・・・とルイズは続けた。 「あんたには無理そうね。頭そんなに良さそうにはみえないし。」 康一はムッとしたが、実際学校の成績がよかったわけでもなかったし、秘薬だのなんだのというのもさっぱりだったので何も言わなかった。 「そしてこれが一番大事なんだけど・・・使い魔は主人を守る存在なのよ!あんた、昨日ゴーレム・・・・えっと、『スタンド』だったっけ?それを出してたでしょ?ひょっとして強いの?その『スタンド』」 康一はうーん、と唸った。 康一は自分のスタンドを信頼してはいたが、強いか?と聞かれると返答に困った。 康一は今まで数々の戦いを経験してはいるが、実際1対1で戦って勝ったことはあまりない。 強敵との戦いではいつも誰かのサポート役だった。 『エコーズ(ACT1、2、3)』を他のスタンドと比べると、時間を止められる承太郎さんの『スタープラチナ』は最強すぎるので除外するとしても、 仗助くんの『クレイジー・D』のようなパワーとスピードもないし、億泰くんの『ザ・ハンド』のような一撃必殺の能力もない。 露伴先生の『ヘブンズ・ドアー』には何度戦っても勝てる気がしないし、あの殺人鬼吉良吉影の『キラークイーン』には相手にもならず一度殺されかけている。 そうして考えて行くと、真正面から戦ったら自分が知るスタンド使いのほとんどに、自分は勝てないだろうなぁ。と思う。 自分だけで勝てたのは由花子の『ラブ・デラックス』と玉美の『錠前』くらいだが、『ラブ・デラックス』ともう一回戦ったら手も足も出ない気がするし、玉美にいたっては、戦闘力では一般人と変わらない(玉美は康一よりもさらにチビだし!)。 康一が沈黙すると、ルイズは溜息をついた。 「まぁ・・・そもそもあんたにそんなのを求めるのがおかしいわよね・・・」 ルイズはまだなにやら考え込んでいる康一を眺めた。 第一印象は『チビ』だった。同年代の女の子の中でもかなり小さいほうに入るルイズ(153サント)と目線がほとんど同じなのだ。 多分実際の身長はルイズよりも少し高いとは思うのだが、そのキャラクターのせいなのか、自分より小さく感じる時すらある。 力も弱かったし、何か一芸に飛びぬけているようにも見えない。 そして何よりも、文句ばっかり言うくせに、頼りない性格。当てになるはずがない。 「わかったでしょ?あんたができそうなのって、掃除や洗濯みたいな雑用くらいしかないのよ。だから文句を言わずに働いてよね!」 でも君が思ってるよりは役に立つと思うんだけどなぁ・・・。康一は思ったが、たぶんそれを言い出しても余計に面倒なことになるだろうと思ったので黙っておくことにした。 前ページ次ページS.H.I.Tな使い魔